宛て名のないX'mas
すると、突き当たりの戸がガラッと開いて、亮太が笑顔で、「裕美!待ってたぞ」と出迎えた。
親子そっくり。笑顔が可愛い。
「もうしょうがないな。ちゃっちゃと終わらせるよ」
裕美は、思わずつられて笑って、部屋に入った。亮太といると、自然体でいられる。すごく楽だ。
(亮太の部屋、久しぶりかも)
壁にはサッカー選手のポスターが張ってあり、サポーターの旗やTシャツがかかっている。
この前も学校をサボって試合を観にいっていた。
亮太は真ん中に丸机を出し、バサバサと教科書を置いた。
「うしっ。あー、あと辞書辞書~」
「ちょっと、もうちょっと片付けたら?」
「しかたねぇじゃん。部活帰ってきてすぐなんだから」
勉強机の本棚を探りながら口をとがらす亮太を横目に、裕美は辺りを見渡して押入れに手をやった。
「ねー、クッションとか座布団とかないのー?」
「あー!」
亮太は慌てて駆け寄り、押入れにベタっとくっつき、首をぶんぶん振って死守した。
「ここは、開けちゃ、だめ…」
「何よ、もー。何かいかがわしいもんでも入ってんの?」
「さあ!裕美ちゃん始めようか!」
「あやしい…」
亮太は「クッションならこっちにあっから。ねっはい、どうぞどうぞ」と、どこからか青いクッションを持ってきて、裕美に渡した。
裕美は、まあいっかとテーブルの前に座り、「で、どれから?」と教科書をめくった。
「いっぱいあんだけど…まず英語だな」
亮太は教科書と課題の問題集を開き、裕美に近寄った。
一瞬どきりとする裕美。