宛て名のないX'mas
―…
「ただいまァー」
「あら、裕美!おかえり」
家に帰ると、敏子が笑顔で迎えた。
料理のいい匂いが漂い、店にはもう何人かお客さんが入っている。
気がつくと、もうちゃっかり店の中にクリスマスの飾りがちらほら…。
ていうか、ここは日本の家庭料理店ですよね?と突っ込みたくなるくらい、見事にムード一色だ。
「すごいね、これ…」
「可愛いでしょう。何だかウキウキしてきちゃうわよね」
敏子は少女みたいだ、といつも裕美は思っている。
だからたまに、敏子ちゃんなんて呼んだりしているのだ。
「敏子ちゃん?でもあのクラッカーはやめてね」
「あら、ダメ?そうだ、夜ごはん、もう用意してあるからね」
裕美は、敏子が店の調理場で作った夕食を奥の居間で食べている。
「はーい」と裕美が返事をした時、ガラっと戸が開いた。
「寒いなぁ。こんばんは」
(また来たし…)
森田茂だ。
ここの所、毎日通っているようだ。
敏子は嬉しそうに笑って、「茂さん、いらっしゃい」と出迎えた。
森田は「とりあえずビール」と笑い返し、カウンター席に座った。
(バッカみたい。こんな年で。何が茂さんだよ。恥ずかしいったらもう…)
裕美はさっさと奥へ入ろうとした。
その時、裕美は森田に引き止められた。