宛て名のないX'mas
「裕美ちゃん、クリスマスは何か予定がおありですか?」
「はい?」
(あ、やば。
めちゃめちゃ機嫌悪そうな顔で振り返っちゃった…)
「ないんだったら、これあげるよ」
森田は満面の笑みで、ポケットから何かを取り出し、裕美に手渡した。
それは、遊園地の無料券二枚。
裕美が何か言う前に、敏子が「あら」と声をあげた。
「いいんですか、茂さん」
「もちろん。福引で当たったんです。この年で遊園地というのも、おかしいでしょう」
はははと大きな口を開けて笑い、森田は裕美を見た。
「一番大好きな人と、行ったらいいよ。そこの観覧車のてっぺんは、願い事が叶うって有名なスポットらしいから」
(一番大好きな人…)
あっけにとられる裕美。その言葉が心の中で響いた。
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
森田の笑顔は優しい。その笑顔が切ない。
森田が悪い人ではないことを、裕美はちゃんと知っているのだ。
裕美は、微かに笑ってお辞儀してから、チケットを握り締めて奥へ入っていった。