宛て名のないX'mas
亮太は、深呼吸をし、動揺しそうになる自分をどうにかこうにか抑えて、サッカーボールを左手に持ち、笑って話を続けた。
「ああ、何かうまくいってるみたいっすね。気に入りました?裕美のこと」
『気に入ったも何も、めちゃめちゃ俺のタイプだよ。上品だし、女の子っぽいし、けなげだし』
「(上品…?女の子っぽい…?けな気……??どこがだよ…先輩だまされてる!)そーりゃあ、よかったっすね。アハハ」
実際の裕美には似合わない言葉ばっかり出てきたもんだから、亮太は苦笑した。
『でも、亮太さ、本当は裕美ちゃんのこと好きなんじゃねぇの?』
「はっ?」
亮太は思わず声を裏返らせた。そして、今度こそ動揺の顔色。
『だって、試合ん時も仲よさそうにしてたし、付き合い長いんだろ?』
電話の向こうの孝志は、どうなんだよ?とぐんぐん攻めてくる。
亮太はまた自分を落ち着かせて、にいっと笑って言った。
「そんな、ないっすよ。俺ら、くされ縁で、そんな恋愛とか、そういう雰囲気じゃないですから」
そういう雰囲気って、一体どういう雰囲気だよ?
自分の口先から出る曖昧な言葉。
『ならいいけど。後輩の好きな子を横取りとか嫌じゃん。
じゃあ…、俺告っちゃおうかなぁ。クリスマス誘われちゃったし、遊園地』
「え?」
亮太は一瞬、ズキンと胸が痛んだのが分かった。