宛て名のないX'mas
(全然知らねぇし、そんなの…)
でも、笑った。無理矢理に笑った。
『一緒に行きませんかって。かわいいよなぁ』
「…遊園地っすか。
へぇー…いいじゃないですか!
裕美のヤツ、孝志先輩にベタ惚れだから、泣いて喜びますよ。きっと俺にも自慢してきて、はしゃいで。ロマンチックなクリスマスとか、言って…」
(何だ?俺。なに保護者みてぇなこと言ってんだ?)
『もし俺と裕美ちゃんがくっついたら、お前、恋のキューピットだな』
(……恋のキューピット?)
その後の会話を、亮太はよく覚えていない。
電話を切った後、しばらくかたまり、すぐに後ろにのけぞった。
「嬉しくねぇ~!キューピットとか…」
(サンタの次は、キューピットか。キューピットなのか、俺…)
とほほと亮太は大きくため息をついた。
何だかもう、何もかも面倒くさい。
亮太は孝志のことを兄のように慕っていて、すごく仲がいい。
尊敬する先輩の恋だ。
後輩は謹んでそれを応援すべきだろう。
だけど、素直にそうできない自分がいて、それがなぜだか分からなくて、妙にイライラした。
その時、着信音が鳴った。
思わずびっくりする亮太。
メールだ。
「…て、裕美じゃん」
【Re:Re:今日はサンキュー!!】
よかったね。試合も頑張って!おやすみ~
―――――――――
「…って、これだけ?」
ガーン。
亮太はあまりにそっけない返事に、思わず肩を落とし、「頭いてぇ…。もう寝よう。そうしよう…」とぶつぶつ呟いて、早々とベッドに入った。
後輩の子のメールの返信なんかすっかり忘れて。
裕美がそっけない返事を出したのは、編み物で手がいっぱいだったから、なんて亮太は知る由もない。