宛て名のないX'mas
「ちわーす!三田酒屋店でーす」
(げっ)
お酒の宅配でやってきたのは、裕美の同級生の三田亮太だった。
裕美は、思わず顔をしかめた。
「あらあ、亮太くん、ご苦労様」
敏子はパタパタと調理場から出て、エプロンで手を拭いてから亮太に駆け寄った。
裕美は近寄って、カウンターにひじをついた。
「何でアンタがやってんの?」
「んあ?ああ、冬休みくらい手伝えってさ、親父に。あ、これもです」
亮太は喋りながらも、お酒を籠から出して敏子に手渡していく。
「偉いわね、亮太くんは。うちの小娘も、たまにはお店手伝ってくれればいいのに」
そう言って、敏子はチラッと裕美を見てから、にんまり笑顔で「はい、お代金ね」と言って、亮太の手のひらにお金を置いた。
「あざーす」と頭を下げる亮太。
そのまま、いたずらな笑顔を裕美に向けた。
「たく、親孝行しろよ」
「うるっさいなぁ。もう用済んだんだから帰んなさいよ」
「裕美。アンタはもう本当に可愛げがないんだから。あ、いらっしゃいませ!」
次々と客が入りだした。敏子の丸い笑顔がパッと咲き、店内は賑わい始めた。
あーあ、アホらしい。
裕美はさっさと二階に上がろうと、店の奥に入っていこうとした。
「あ、裕美」
「何よ?」
「ちょっと来いよ」
「ぐえっ、ちょ!」
何なの!裕美はマフラーを引っ張られ、店の外へと連れて行かれた。