宛て名のないX'mas
―…
「おはよう、敏子ちゃん」
店はまだ開店前。
裕美が着替えて下に降りていくと、敏子は「もう、お昼になっちゃうわよ」と言って、朝昼兼用の鍋焼きうどんをテーブルの上に置いた。
裕美はまだ少し寝癖の残った髪をいじって、どかっと椅子に座り、うどんをすすった。
敏子は、冷蔵庫からお茶を出しながら、「ねーえ、裕美?」と口を開いた。
「何?」
「四十代のオバちゃんが、恋に夢中になるのって可笑しい?」
「ごほっ」
思わずむせる裕美。
一体全体、そんなこと聞いてどうするつもりなんだろう…。
裕美の頭には、森田の、のん気そうな顔がぼんやりと浮かんだ。
(裕美、ここは冷静にならないと)
「別に、いいんじゃないの?お母さんがいいと思うんだったら」
「本当?絶対?」
敏子は、向かいの椅子に座って前に乗り出した。
裕美は適当に「うん」と答えた。
いいえって答えたら、どんな顔をするだろう。
敏子は、悪くはないそんな娘の反応を見て、少しホッとしたような表情を見せてから、話を切り出した。
「茂さんとお付き合い始めて、もう二年が経つの。本当にいいパートナーでね、何より、運命の人だと思うの。それでね、私達、結婚したいなって思ってるのよ」
「…えっ?」
結婚?
裕美は状況がうまく把握できない様子で、しばらく手をとめていた。
森田と、敏子が結婚する?夫婦になるの?
そんなばかな。