キス魔なアイツ
*姿
あれから何日経っても環はオレの目の前には現れなかった。
学部も学年も違うオレ達は、偶然に会う事はあまりない。
なのに。
環だ…。
遠目でも分かった。
中庭を環にナツ、そして見知らぬ男2人と4人で歩いていやがる。
手でジェスチャーしながら笑いあっていて楽しそうだ。
オレには向けられる事のない明るい笑顔に胸が痛む。
環はオレのだろ?
あぁ、ムカムカする!!
もしかして、もうどっちかのヤツに取られちまったのか?
このまま出て行って無理矢理にでも連れ去ってしまいたい。環を泣かして、グチャグチャにしてしまいたい…。
「せ~んぱい、何見てるんすか?」
黒い感情を持て余してるオレの背後で、脳天気な声が聞こえて来た。
「眉間にシワがよってますよ」
それは、ニヤリと笑った谷川だった。
「あれは、なっちゃんと環ちゃんですねー。あ!そうそう今日もオレと3人で打ち合わせなんですよ。『夏会』楽しみにしてて下さいね。合い言葉は"ホイホイ"ですっからっ!!」
ホイホイ? 余興か?
「後ですね~、あの2人の男は友達ですよ。仲良いみたいですけどね」
「…………」
「じゃ! オレはこれで」
言いたい事だけ言った谷川は、きな臭い笑顔を浮かべながら手を振り去って行った。
くそっ。
中庭に目を戻したが、環の姿はもうなかった。