クロス
栗原朱美 22歳 冬
 上空が一瞬光り、その光が左から右へ流れるのを見て、何か願いごとはないかと思った。考えだすよりも遥か先に、その光は東の山の頂へと呑み込まれた。こんな一瞬のうちに願いごとをお祈りできる人って、どれだけ貪欲なんだろう。私は、願望のない自分を戒めながらも、他人を皮肉ってみた。
 
 最近少しずつ、寒さが増してきている。今何月だろう。周囲の人々の服装から推測すると、11月の終わりくらいだろうか。11月の終わりと簡単に口にしてしまったけれど、それは受け止めたくない現実であり、受け止めていかなければならない現実でもある。これから先、寒さを凌いで生きていくためには、どうすればいいのだろうか。溜息がでた。
 
 家出をしたのは、ちょうど9月の始め。幼い頃から溜め続けた貯金を切り崩すことで、ここまでどうにか生きてこられた。自分の想いを受け入れてくれない両親に対する怒りや不満が、これまでの自分を支えてきた。それが次第に薄れてくると共に、自分の今置かれている状況に対する虚しさや絶望感が一気に膨れあがり、全身を蝕むようになった。
 
 幼い頃から、男勝りの女の子というレッテルを貼られ続けた私には、このくらい何ともないと思える力はおそらくあるのだろう。だけどこのままではいけないという想いの方が圧倒的に強い。いちから1人で生きていくと勢いよく宣言して家を飛び出してきたわけであるから、それを意地でもやり遂げなければ、私のプライドが傷つけられてしまう。
 
 
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