ビル群に咲く
「へぇ、それは怖い夢だ」
「そうでしょ? 私もう泣いちゃったよ」
「あんたは本当弱虫だね。でもまあ、あたしも泣いてたかもね」
「本当? ミチは泣かないよ絶対!」
「いやいや、ほらあたしも乙女だし、弱いし。つかホラー嫌いだしね」
「そうなの? 絶対嘘でしょう」
「嘘じゃないよ……あんた、その人たちに見覚えないの?」
「……う、うん! ぜっ、全然知らない人たちなんだよ! 本当、怖いよ」
「そう……確かに怖いね」
 ミチとは小学校からの付き合いだ。たまに、二人で出かけて食事をしたりする。無論彼女はニートではない。できる子なのである。
 ミチは今日私の家に来ていた。私はアリのこと、フセインのこと、破壊行動のことは話していなかった。話す気はない。一笑に付されるかも知れないし、気が違ったと思われるかもしれないし、信じられるかもしれない。私は怖かった。
「ところで、あんた働かないの」
「え……いや、何ていうか……仕事恐怖症?」
「……あんたいつか死ぬよ」
 こうやって私ことニート暦2年を咎めてくれるのも彼女だけだった。両親は金持ちなので、私がニートでいることを全然気にせず、むしろ好きなだけ無職れと言うのである。一人娘は可愛いらしい。
 そんな一人娘が、今話題の連続爆破テロ犯だと知ったらどう思うのだろう。
 考えると涙が出てきて、しょうがないのでミチの胸で泣いた。
「どうしたのさあんた」
「ごめん、泣かせて」
「……よしよし」
 親元を離れ、都会に出てきた挙句ニートになった娘を甘やかしてくれるのもミチだった。
 ミチがいれば彼氏とかいらないね。
「あたしは欲しいけどね、彼氏」
「冷たいね」
 私の恨み言に、ミチは笑った。
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