ビル群に咲く
 2ヶ月ほど経ち、ずっと忘れていた。
 ふいに部屋の隅に目をやるとノートパソコンがあり、それが謎のアラブ人の残した大量破壊兵器であることを思い出し、ああ、アリとか今どうしてるかな、消えてしまったアリ、文字通り消えてしまったアイツは今どうしてるだろうか……などと思索にふけっていると、急に目の前が眩い光に包まれた。
 何だ何だ、許可なく眩しくするな! 殺すぞ! といきり立ったが、その光がやむと私は開いた口をふさぐのに苦心した。
 アリが現前していた。
「コニチハ、アリチャン」
「こっ……こんにちは……」
 紛れもなくアリである。もう、寸分違い無くアリである。驚くほどアリである。
「ど……うしたの……アリ……?」
 アリに問うたが、アリは「アラブ語でおk」といった顔をするので、私はイラっと来た。
 とりあえず部屋の隅で埃を被っているノートパソコンを開いた。少し胸が疼くような感触を抱きつつ、私は翻訳サイトにつなぎ「あなたは何故ここにいるのですか」という文を翻訳し、アリに見せた。
 アリは「オゥ」と呟き、手紙を取り出した。用意周到だ。
「大したコト、ありません。ひとつだけ、アリ、いいたい。フセイン、壊すことしたら、今までしてきた全ての破壊行為が元に戻るます」
 破壊行為が元に戻るます――無かったことになるのか? 今まで行った破壊行為が、無かったことになるます。これは私にとって福音たる知らせだった。
 アリは言うことだけ言うと、満足げな顔をして帰っていった。明らかに話を進めるための梃入れである。
 ……いらん事を言った気がする。とにかく、やることができた。
 フセインの破壊――それが目下の目標であり、使命である。
< 11 / 12 >

この作品をシェア

pagetop