ビル群に咲く
「こ、これ好きに使っていいの?」
「……」
 アリは黙ったままだ。おい何とか返事しろ、お前は名前だけじゃなくて脳みそもアリ並みだったってかおい、HAHAHAと言おうとしたが、それすらも理解されないことを、正確にはHAHAHAしか理解されないことを思い出し私は下唇を噛んだ。と言うか、黙ったままなのは当たり前である。言語がわからないのだから。
 私はアラブ語変換サイトに繋ぎ、そこに「好きに使って良いのか」と打ち込み変換した。アリはそれを一瞥すると、私に向かってニヤリと笑い親指を立てた。流石アリ!やるじゃん!
 しかし、どうにもいまいち信用できなかった。そして謎が多すぎた。
 まず、アリよお前はどこから入ってきたのか。日本の警察は意外と笊ではない。ところが私は納得した。全開に開け放たれた窓を見て納得した。暑いので開けておいたのだ。ぬかった。
 いや、しかし先ほどドアが開かなかったのはどういう仕組みだ。トリックだろうか。仲間由紀恵がお見通しなのだろうか全て。
 だがまたしても私は納得した。ドアは押すタイプだった。私がいくら引いても、そりゃあビクともするわけはなく、むしろした場合の対処が非常に面倒だ。ぬかった。
 フセインなるソフトウェアは果たしてジョークソフトなのか?
 しかし、アリの自信満々で少しこちらがイラっと来るような顔を見る限りだと、何だか本当に大量破壊兵器に思えてくる。
 というか、ジョークソフトを渡すためにわざわざ私の部屋までくる筈がない。ぬかった。
 では――なぜ私なのか?
 そこである。
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