花歌―ハナウタ
『…起きてる?』



龍司の顔を覗き込む。



ここ最近、ゆっくり眠ったことがなかったから、

完全に眠っているようだ。


あたしの肩に、しっかりと回されている龍司の腕を、そっとはずす。



あたしは、部屋を抜け出した。



仏壇があり、ひんやりとした空間だ。



『すみません…だれかいますか』



大きな声を出さないように小声で問い掛ける。



ギシギシと床がきしむ音がして、おばあさんが顔を覗かせた。



『龍司は…?』



『今、部屋で眠っています。』



あたしは、今までのいきさつを話した。



おばあさんは、

『…ごめんなさいね…』 
 と言うと、ぽつりぽつりと話し始めた。





『あなたにこんなことを言っても、どうしようもないだろうけど…

龍司はかわいそうな子なの』




龍司の本当の母親は、
おばあさんの娘で、

男にだらしなく、妊娠がわかったとき、誰の子供かわからないまま、一人で産んだらしい。

龍司が二歳になったころ、新しい男ができると、
龍司を残して出ていったこと。



『いつも、じっと我慢していたけど、一度だけ、お母さんに逢いたいって泣いたことがあったよ。

あんなに小さいのに我慢して…今でも忘れない。

でもそれが一度きりだった
龍司の母親をそんなふうに育ててしまったのは、私の責任。

龍司は何も悪くないのに…
親の勝手で、悲しい思いをしたんだ…』



おばあさんは、泣いていた。



成長するにしたがって、手がつけられないほど荒れはじめた龍司。



『もう私も年だし、
どうすることもできない…
ただ、あなたといて、
龍司は最近、落ち着いてきた気がするよ。』



おばあさんは申し訳なさそうに、頭を下げると、

『ごめんなさいね…』ともう一度、言った。








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