ことば
「ねぇ、この講義って出る意味あると思う?」

しばらくの沈黙の後、彼女が唐突に呟いた。

「え、だってこれ一応必須講義なんじゃないの?」

別に真面目な性格なわけではないが、小心者の私は“必須”と言われる講義は絶対に出席しなければいけないものだと思い込んでいた。

「単位さえ取ればいいじゃん。こんな騒がしい教室で教授が一方的に喋るだけの授業なんて聞いてても意味ないと思うんだよね。」

言われてみれば確かにそうだ。

出席している生徒の大半が友人とおしゃべりをしたり、本を読んだり、中にはヘッドホンをつけて音楽を聞いてる者もいる。
それでも前にいる教授は、注意もせずただひたすら自分の得意分野の話を淡々と語り続けている。

「抜けてどっかでお茶でもしようよ。」

そう言い、彼女はまた悪戯っぽい笑みを浮かべて席を立った。

彼女は迷う事無く後方の扉に向かって歩き始める。

壁際に座り込んでいた生徒達の視線が一挙に彼女に向かうのがわかった。

その様子を口を開けて眺めていた私に、扉の前で振り返った彼女が手招きをした。

そして気付けば席を立ち、彼女の方へと向かっていた。

彼女が持つ、何か不思議な引力みたいなものに引っ張られた様に思えた。

今思えば彼女はいつでもそうだった。
何か不思議な力でいつも私を導いてくれていたのだ。
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