ことば
その日以来、私は自然とキャンパスではいつも彼女と一緒にいる様になった。

彼女は私が想像していた人とは全く違った。

外見の繊細なイメージから勝手に物静かでクールだと思い込んでいたが、彼女は実によく喋り、よく笑い、いい意味であけっぴろげな性格だった。

2人で講義を抜け出し、大学のカフェテリアでオレンジジュースを飲みながら話をしたあの日、彼女は自分の事を色々教えてくれた。

薗田唯という名の美しい女は、横浜で生まれ父親の仕事の都合で幼い頃から世界中を転々としてきた。

小学校1年から3年までをニューヨーク、4年から6年までをカナダ、中学校3年間と高校1年間をパリで過ごし、高校2年の春に横浜に戻り、この春から京都の大学に通う事になった。

ジャズが大好きで、焼きたてのスコーンなら毎日食べてもいいけど生クリームののったケーキは嫌い。

ひとりっこで小さい頃からお兄ちゃんが欲しくてたまらなかったという事、京都の街並みが大好きだと言う事、横浜の海が好きだと言う事、アウトドアが好きだと言う事。。。

それからも彼女はいつでもたくさんの事を話し、たくさんの事を教えてくれた。

私が知らない世界をたくさん見て来た彼女の話は深く、面白く、退屈しないものばかりだった。

彼女だけの言葉で、彼女だけにしか出来ない表現で、自分が知っている事は惜しみなく何でも教えてくれた。



-そう。彼女が私に教えてくれなかった事は、たった一つだけだ。



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