ことば

6月に入り、梅雨の季節になっても“亀”の部室に顔を出した事は一度もなかった。

なんせ写真を全然撮っていないのだから、行く理由がないのだ。
第一、大槻さん以外の部員にひとりも会った事がないのにいきなりどんな顔をしてあの扉を開けばいいのかわからない。

一応カメラはいつでも持ち歩く様にしていた。

せっかく良いカメラを貸してもらっているのだから撮らなくちゃという思いはあるのだ。

でも、何を撮ればいいのか、何が撮りたいのかがわからない。

自由人が撮った空の写真に強く惹かれはしたが、だからと言ってその真似をして空を撮ろうとは思えない。
たいした個性も持ち合わせていないくせに、人の真似をする事は小さい頃から何となく好きではなかった。

「雨ばっかりでやーね。」

前に座った唯が、しかめっ面をして窓の外を眺めながら呟く。

「まぁ梅雨やからなぁ。仕方ないっちゃ仕方ないけどな。」

A定食のチキンカツを口に運びながら答えた。

「もーう。ほんとに淡白だねぇ。香澄は。」

ふくれっ面をしても美しい友人を見つめる。

「ねぇ、梅雨が明けたらどっか旅行行こうよ!」

「そんなまた唐突な…。。」

「やっぱ夏と言えば海かな!ね!行こう行こう!」

「いや、親の許可もらわんと何とも言えんけど…。」

「じゃあ今日家帰ったらご両親に話してみて!駄目ならあたしが説得する!ね!」

唯なら本当にうちの頑固親を説得出来そうな気がするから不思議だ。

ひとりで早くも色々と計画を練り始めている友人を眺めながらそう思った。

(旅行かぁ。)

唯とならきっと楽しい旅になる。そう思わせてくれる彼女はすごい。

人見知りな私がたった2ヶ月足らずでこんなにも人と打ち解けられたのは彼女の奔放な性格のおかげだろう。

そんな事を考えながらふと窓の外に目をやった。


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