ことば
私は少し興奮を覚えていた。

別にあの写真を撮った人物に会いたいという欲望はなかった。

ただ、あの眩しいほどの空の写真を撮ったのが、あの男で良かった。

降りしきる雨も、学生達の視線も気にせず、ただひたすらシャッターを押し続けていたあの男で良かった。

なぜかはわからないが、そう思ったのだ。


大槻さんに別れを告げ、唯の待つ教室に向かう。


(…写真撮ってみよう。)

私もあの人の様に、何もかも気にせず夢中になれる何かを見つけたい。

ふいにそう思った。


「遅かったね。どうしたの?」

唯が席を取って待っていた。

「いや、知り合いに会ってちょっとだけ立ち話してた。ごめんな。はい、ミルクティー。」

「ありがとう。」

唯が微笑む。

いつもながらキレイな友人の笑顔にしばし見とれる。


「唯、モデルとかなればいいのに。」


常々思っていた事を口にした。


「えー無理無理。」


無理なわけがない。

そんじょそこらの芸能人よりはるかに美人だというのに。


もし街中でカメラマンが彼女を見掛けたら絶対放って置かないだろう。

そこまで考えて、もう一度彼女の顔を見る。



-そうだ。


こんなに身近にこんなにも良い被写体がいるのに、どうして私は今までシャッターを切らなかったんだろう。

急に自分がものすごくもったいない2か月を過ごした気がして、後悔した。


決めた。


唯を撮ろう。


自慢の美しい友人を、誰か他のカメラマンに撮られてしまう前に、私が撮るんだ。


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