ことば

唯を撮ると決めて以来、私は常に彼女をファインダー越しに見つめていた。

講義前の時間も、食事中も、芝生の上でうっかりうたた寝してしまった時も。


彼女は、写真を撮られるのは好きじゃないと言いながらも、いつも結局最後には、


「しょうがないな。香澄の芸術のためなら。」

と言いながら、最高の表情をしてみせてくれた。


ファインダー越しに見る彼女は、より一層美しく、まるで別世界にいる様にさえ見えた。

彼女がカメラに向かって笑いかけると、心臓が止まりそうなぐらいにドキドキした。


きっと私が男の人なら、一瞬で彼女に恋をしただろう。


恋愛偏差値の低い私でも、そう思ってしまうぐらいに唯は魅力的だ。


美しい友人をしっかりと納めたフィルムは、いつのまにか五本にまで増えていた。


(そろそろ現像しやなあかんな…。)


そして、入学式から3ヶ月目にしてやっと“亀”の部室に行こうと決断した。


とは言え、いまだに大槻さん以外の部員を知らない状態で一人ノコノコ乗り込んで行けるほど、私は勇敢ではない。










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