ことば
「かすみ?」
「え?」
「やっぱり!かすみや!」

振り向いたその先には、笑顔でこちらに手を振る健康的な小麦肌の大きな瞳をした女の子がいた。

甲田温子。小学校時代一番仲が良かった彼女は、あの頃と全く変わらない明るい笑顔で私を自分の隣の席に迎え入れてくれた。

「それにしてもびっくりやわ。こんな所で再会出来るとは!」

本当にびっくりだった。あっことは父親の仕事の都合で小6の秋に彼女がアメリカに転校してしまって以来しばらくは文通をしていた。しかしそれもお互い中学に上がって忙しくなる内に途絶えてしまったままだった。

「かすみは何学部なん?」
「商学部。あっこは?」
「文学部英米学科。」
「さすが帰国子女。やっぱペラペラなん?」
「いやあたしアメリカおったん2年だけであとは広島におったから広島弁の方が得意じゃよ。」

そう言ってあっこは大口を開けて笑った。可笑しくてつられて笑う。
私は昔から彼女のこういうあけっぴろげな性格が大好きだった。小さい頃から人見知りの激しかった私が、小学校で友達をたくさん作れたのは彼女のおかげだと言っても過言ではない。
 
長く退屈な入学式を終え、講堂を出るとそこにはサークル勧誘の為に集まった学生達が群がっていた。

キャンパスライフにおける青春と言えば、サークルだと思わないわけでもないが、どう考えても片道2時間かかる通学の事を思うと、とてもじゃないがサークル活動などに精を出す気にはなれない。

ビラを受け取りつつ曖昧な笑顔でアーチの様に続く勧誘の嵐をすり抜けていく。

「あっこ何かサークル入るん?」

さして興味もないくせに尋ねてしまった事を後悔した時には遅かった。

「よう聞いてくれた!実はあたしカメラに興味あるんよ!見に行かん!?」

さぁこうなっては断れない。昔から彼女に強く押されて断れた試しなど一度もないのだ。

「三つ子の魂100までってほんまなんやな…」
あっこに引っ張られてカメラサークルの部室へと向かう道中、思わず呟いた。

「ん?何か言った?」
「いや、何でも。」

彼女のこーゆう強引さや無頓着さが私にも少しはあれば良いのに。

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