ことば
「どこやろね?カメラサークルの部室。」
「人に聞いてみたら?」

私の言葉を聞き終わる事なくあっこは前を歩いていた女の人に声をかけていた。

「すいません。カメラサークルの部室ってどこですか?」


振り向いたその女性を見た瞬間、開いた口がふさがらなかった。
それはもう間抜けな顔だったに違いない。

胸まであるゆるいウェーブの髪、透き通る様な肌、大きくて真っ黒な瞳、筋の通った鼻、長い手足。

女の子が皆欲しがる要素が、意地悪な神様の悪戯で全て彼女だけに与えられてしまったのではないかと思う程、パーフェクトだった。

「ごめんなさい。わからない。」

私があまりにも長く、じっと見つめすぎたせいだろうか。
彼女は少し不思議そうな目をして微笑みながらそう答えた。そして私達にピッと伸びた背中を向け歩いて行った。

彼女の後ろ姿から目が離せずただ立ち尽くす私にあっこが声をかける。

「かすみ!なんかあっちに部室集まってるぽい!行ってみよ!」

そう言い放ち、スタスタ歩きだしたあっこに置いて行かれぬ様、小走りで後ろをついて行く。

いくつかの文科系サークルの部室が集まった建物はホコリっぽく、壁や扉の至る所に色んなサークルのチラシが貼られている。

あっこと二人、カメラサークルらしき部室を探して探検がてら建物内を歩いてみる事にした。
しかし、10歩も歩かない内にその部屋は見つかった。

“カメラサークル 亀”

そう誰かの字で丁寧に書かれてある扉を見て、あっこが明らかに不満げな声で漏らした。

「亀って…。もうちょいセンスのいい名前なかったんかな。」
「カメラと亀をかけたんやろね。」
「それやったらせめて甲羅の“羅”と合わせて“亀羅”の方がまだ許せるわ。中途半端やん!」

あっこが真剣に語る姿が面白くて噴出しそうになるのをこらえながら問いかけてみた。

「どうする?引き返すなら今やで。」

正直なところカメラになんて全く興味はないが、こんなへんてこなサークル名に納得している人達の顔を見てみたいと言う気はしていた。

でもやっぱり興味のない事の説明に耳を傾けるのは面倒だし、ここであっこが引き返してくれれば、街の方に出て京都散策が出来るという微かな期待を胸に聞いてみたのだった。

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