ことば
「うーん。やっぱ興味あるし行く。」
予想していた通りの答えだった。彼女は一度決めたことは曲げない性格だ。

コンコン。

あっこが数回扉をノックする。が、中からは何の反応も無い。

「すみませーん!誰かいませんかー?」

さすが、“亀”だけあって反応が鈍い。
と、一人で心の中で呟きながら可笑しくなってまた噴出しそうになる。

その時ゆっくりと重い鉄製の扉が開いた。

キィ…

中から顔を出したのは“亀”に似つかわしくない爽やかな青年だった。

「何すか?」

高校の時は何か体育会系の部活にでも入っていたんだろうか。
体育会系特有のオッス口調で爽やか青年があっこと私に問いかけた。

「あ、私達新入生なんですけどカメラに興味があって話だけでも聞かせてもらいたいなぁって思って来たんです。」

あっこの言葉を聞いて爽やか君は半分だけ開いていた扉を全開にして笑顔で、どうぞ、と一言だけ言った。
短髪にストライプシャツという見た目の爽やかさに比例した笑顔に促され、中に入る。

「わぁ…」

中に入った瞬間、2人して声を漏らしてしまった。

狭い部屋の壁一面に貼られた空の写真。

抜けそうな青空、真紅の夕焼け空、今にも泣き出しそうな曇り空。
色々な表情をした空の写真が私達を迎えてくれた。

「すごいでしょ?」

得意そうに爽やか青年が私とあっこに向かって言った。

「これあなたが撮ったんですか?」

人見知りな私が思わず口を開いてしまったのは、写真にあまりにも感動したせいもあったが、この青年の笑顔がそうさせた様な気もする。

「これは俺の尊敬する先輩の作品。世界を旅してまわってはるんやけどなぜか空以外は撮らへんねんな。」

「世界を旅してるって事は、卒業生の人ですか?」
あっこが青年に尋ねる。

「いや、今3回生。でも自由人やから、サークル顔出したかと思えば次の日にはインドにおるとか普通にあるから。」

(自由人か…。)

私には一生縁の無い言葉かもしれない。なんせいまだに門限9時、外泊は前もって報告厳守なのだから。

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