ことば
「ところで自分ら入部希望なん?」

青年がカメラのレンズを磨きながら言った。

「あー…まだちょっと検討中なんで…。」

あっこにしては珍しく曖昧な答え方だ。

普段の私ならここで、私もまだ…とあっこに便乗してこの場を逃れようとしただろう。
でも今日はなぜか違った。

ここで引き返したら後悔する。そんな直感がした。

「入ります。」

自分でも驚いた。気付けば自然と口にしていた。

「かすみ!?マジ?」

あっこの驚いた声には答えず、私は壁に貼られた写真にもう一度目をやった。

理屈じゃない。

ただ、私はその空の写真達に強く惹かれたのだ。
それだけだった。それだけでも一見冴えないサークル“亀”に入部するじゅうぶんな理由に思えた。

自分にもこんな写真が撮れるのだろうか、こんな写真を撮る人の目に自分はどんな風に映るんだろうか。

そんな衝動にも近い思いが私を突き動かした。

「入ります。手続きとか必要ですか?」

爽やかくんは磨いていたカメラを机の上に置き、こっちを見てまた爽やかに微笑んだ。

「手続きなんかいらんよ。名前は?」

「高木香澄です。」

そして彼は立ち上がり、少し日に焼けた右手を差し出した。

「俺は大槻祐介。経済学部の2年。よろしく。」

その時、やっと自分がとんでもない事をしでかしてしまった様な気がしたが、もう引き返せないと言い聞かせ、そっと右手を差し出した。



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