エングラム


だからオウ兄は

──シランはシランだから、同じこと思わなくて良いんだよ。君の体は君のもの。君の記憶も心もね──

そう、言っていたんだ。

苦しかっただろう。
すべての人が思い通りに動いてしまうなんて。

自分だけが、マリオネットの糸を持っているなんて。

私も──…

「お前はオウのチカラの影響、他の奴らと違って受けていないみたいだな」

「え?」

思わず、聞き返した。

歩いていた脚を、止める。

すぐ近くの線路を、電車走った。それとともに、音。

「オウはお前のこと特別大切だったんだな、だからお前は」

電車の音に隠れて、それは聞き取れなかった。

「え?」

「二度は言わない、悔しいから」

そう言ったシイは、口元を手で覆っていた。
何を照れているんだろう。
電車が通り過ぎて、音が止む。

「オウは自分のチカラに苦しんでた」

シイは一度咳ばらいしてから、遠い目で宙を見て言った。

「一時期はこんな良いチカラはない、って思ったらしい」

だが、とシイは続ける。
オウ兄の歩いた軌跡の話し。
辿る、言葉。



< 103 / 363 >

この作品をシェア

pagetop