エングラム
だからオウ兄は
──シランはシランだから、同じこと思わなくて良いんだよ。君の体は君のもの。君の記憶も心もね──
そう、言っていたんだ。
苦しかっただろう。
すべての人が思い通りに動いてしまうなんて。
自分だけが、マリオネットの糸を持っているなんて。
私も──…
「お前はオウのチカラの影響、他の奴らと違って受けていないみたいだな」
「え?」
思わず、聞き返した。
歩いていた脚を、止める。
すぐ近くの線路を、電車走った。それとともに、音。
「オウはお前のこと特別大切だったんだな、だからお前は」
電車の音に隠れて、それは聞き取れなかった。
「え?」
「二度は言わない、悔しいから」
そう言ったシイは、口元を手で覆っていた。
何を照れているんだろう。
電車が通り過ぎて、音が止む。
「オウは自分のチカラに苦しんでた」
シイは一度咳ばらいしてから、遠い目で宙を見て言った。
「一時期はこんな良いチカラはない、って思ったらしい」
だが、とシイは続ける。
オウ兄の歩いた軌跡の話し。
辿る、言葉。