エングラム









初めて会った日も泣かされた。
次いで今日も泣かされた。

たった数日しか会っていない人だ。
けどそのたった数日は、何年分にも匹敵する濃い数日だった。

「…あの、シイ…もう泣き止みましたから離れてください」

「内心、もっとって思ってんのぐらい分かる」

「人の心読まないでくださいってば!」

「お前のは、読みたい」


ぎゅううっと抱きしめられた。

なんて、甘い言葉と体温。

今まで知らなかったこと。

やばいこの人。
私が離れられなくなる。

「離れなくて良い」

「シイっ」

超至近距離、見つめ合う。


「傷に踏み込んでくれて、ありがとう」


シイは口元を少し上げて、愛しさが伝わる顔で私に囁いた。

「どういたしまして、変わらぬ愛」

変わらぬ愛も紫蘭の花言葉なんだ。

甘い言葉に、頭がクラクラした。

シイから、また甘い匂いがした。
それは花の香りだと気付いた。



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