エングラム
そんなことって、私は何も言っていないのだが。
何で、この人は。
私はあそこに行かなきゃいけないのだが。
口には出さず無言で思った。
「だからっ!」
目を吊り上げて彼は口調をやや荒げて、私の無言の思いを読んだように言う。
「そんなとこに行ってお前は──…!」
「シイ、やめなよう」
私の腕を掴むバンドマンが私に言おうとした言葉を遮って、別の音の声がした。
バンドマンがぐっと言葉を飲み込んで、私もその声の主を見た。
透き通った亜麻色の髪。
シイと言われたバンドマンが咎めるように言う。
「ケイ」
ケイと言われたのは、
「なんかごめんねぇ」
唄っていた、ボーカルの少年だった。