エングラム








外へ出て駅前で彼らが歌を始めれば、私は聴衆の一部にしかならない。

彼らが楽器を出して、黒いジャケットを見せ付ければ。
だんだんと人が集まってくる。

毎週やっているし、そこそこ名前が知られているのかもしれない。

──クラスペディア。

良い響きだなと純粋に思う。
その名の本当の意味を、まだ知らない。

楽器を出すと彼らはすぐに音を広げた。

ザワザワとした音の中で、冴えた彼らの音は心によく響く。

うるさい世界の中の、音という静寂。


シイのスティック同士をぶつけるカツ、という音が鳴る。


ケイの口元が笑って──唄う。



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