エングラム



最初はギターソロ。
キツネ目のユウが音を突き刺してくる。

そしてそこにベースとドラムが重なってくる。


──傷付くことが必須事項の世界で、一人になりたいなんてうそぶかないで──

ケイが丸い声で唄う。甘い声。
耳を舐めるような。

──本当は違うんだろ、一人にされるのが怖いから自ら立候補してんだよな──

あぁ、私も。
周囲に“独り”にされるのは嫌だから自分から“一人”を選んでる。
先手必勝だ。
相手に傷つけられるより事前に自分を傷つけるのを選ぶ。

曲にシイとユウのコーラスが入る。

──こっちにおいで

こころなしか、シイが私を見た気がする。

ケイが軽く首を傾げて、弦を揺らしていたベースから、その手を、聴衆に伸ばす。

心臓に響くベースが消える。

だからやけに甘く冴えて聴こえた、歌声。
綺麗に重なるコーラス。

──君の心に触れよう、寒いだろう温めさせてくれ──

伸ばされていた手が、再び弦の上に戻った。



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