エングラム
帰りの電車の中でシイが言った。
「ユウのこと格好良いって一瞬思っただろ」
これを言うまで彼はむっつりと黙っていたので、聞いて口元が緩みそうになった。
「シイが女の子と話してるからですよ」
私も言い返す。
やきもちだったら負けない。勝っても意味ないけど。勝敗つかないけど。
私がそう言ったら、少しシイの口の端が嬉しそうに上がった。
「話し掛けられて無視できないだろ」
しかも曲に感動したって想い伝わってきたからな、とシイは付け加える。
「人気者ですねー」
嫉妬する私が面白いのか、やっぱり少し口が笑ってる。
「面白いじゃなくて、可愛くて」
「読まないでくださぃいっ!」
「こういう嫉妬って嬉しいもんだな」
「言わないで!それ以上言わないでください!」
私が耳を塞いで、俯く。
すると隣の座席に座るシイが少し私に身を寄せて、すっと耳を塞いでいた私の手を話してささやいた。
「オレもユウに少し嫉妬した。これからは唄い終わったら直ぐにオレん所に来いよ」
耳から伝わる低い声に溶けそうになった。