エングラム
なんだろうもうこの甘さ。
私が顔を赤くして俯いていると、シイが小さく歌を口ずさむ。
また、これは。
「…Golden Slumber…?」
そう尋ねると、まだ歌いながらシイが頷いた。
電車の中にはたくさん人がいるのに、私だけが拾っている声。
あの歌を、唄ってほしい。
私がそう思ったのに気付いて、シイは曲を変える。
ゆったりした優しいバラード。
──THE BEATLESのHere,There and Everywhere。
少し、勇気を出して。
隣のシイにもたれてみた。
彼の広い肩に頭を預ける。
ふっ、とシイは笑って私の肩に手をまわした。
傍から見たら絶対バカップルだと気付いたが──安心感と温もりが優し過ぎて、終着駅までそのままだった。
花屋での日にシイが教えてくれたこの歌は最高のラブソングだと思う。