エングラム



嬉しそう、なのだけれど。
どことなく影っていて。
見ている私が不安になって、揺らいだ。

「……ケイ…?」

シイの視線を感じながら、ケイを呼んだ。

「ん?──あぁちゃんと毎週土曜日はこうしてみんなでやるよぉ」

顔を上げたケイは、一瞬で表情を笑顔に変えた。
いつものきらきらの笑顔。

私が言葉に迷うと、シイが重たい声で裂いた。

「未来が、どうした」

「───シイ」

ユウが声を咎めた。

薄くなったケイの笑顔に、シイは言葉を続ける。

「チカラを持ってる奴の心はあんまり読めないし、今まで分からなかったが」

いつの間にか止まっていた、音楽。

「未来がどうたら、ってすげえ揺れてるのが──伝わってきた」

読もうとしてないのにだ。
シイはそう続けて、俯いた。

「心配してくれてるのぉシイ?優しいね」

「心配しなきゃ、っていう偽善かもな」

シイはふっと口元を上げた。

「優しくて可哀相。シイ気にしないで。コンテストへの不安だから、さ」

私が何か言おう口を開きかけたら、ユウが私を見て軽く手を振って言葉を飲み込んだ。
どのみち、良い言葉などなかった。



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