エングラム
「シランは聴いてて」
大きくて硬いドラマーの手で頭をなでられる。
「はい」
頷いて場所を移動した。
「ユウ聞いてたよね?」
「はい。あれはギターが目立つので大好きです」
ユウは答えて、少しギターをいじる。
「シイはドラム兼ボーカル。音負けないでねー」
「当たり前だろ」
シイは笑うと、私を見た。
しっかり聴いてろ。
そんな表情だったので頷いた。
「シランちゃんに捧げる。バイ、シイ」
「なんだそれ!?」
「その通りでしょう」
「黙れ!」
そう言ったシイは口元を手で覆っていた。
──あぁいつものクラスペディアだ。
体からすっと不安が抜ける。
シイがスティックを打ち鳴らす。
刹那に澄む空気。
響き出す、ユウのギターリフ。
そしてドラムとベースが入ってきて、声が走るための道を作った。
──シイの低い声がストレートに、私に届いた。
少し渇いた、荒れたとも言える低い声。
その分必死な心が伝わる。
レイラ、と私を呼ぶ声。
心が震える。