エングラム
耳に届いた声から脳に伝わって痺れる。
その痺れるような音で床が揺れて──共鳴して──いる。
どこか艶めいた声。
ドラムの音が弾ける。
少し掠れながらも腹の底から出したようなその声は負けない。
耳を引き付けるギターリフ。
しっかり音を繋ぐベース。
リズムを刻むドラム。
やがて音が消えて、私は手が痛くなるほどの拍手をする。
「ありがとうー」
ケイが額に張り付いた髪を振り払って言った。
「シイのシランさんへの溺愛っぷり伝わりましたか?」
ユウがやはり涼しげな顔で私に尋ねる。
汗や暑さと彼は無縁のようだ。
ちらりと、汗をかいたシイを横目に見て。
「はい。伝わりましたっ」
笑顔でユウに答えてみせた。
自分で言って恥ずかしくなって少し頬が染まった。
「しっかり聞いてましたかシイ」
「聞いてたから!聞くな!」
シイは口元を手で覆って答えた。
あぁもう、可愛過ぎる。
シイは何か言おうとしたのか口を開いたが、目が合って口を閉じてしまった。