エングラム



ピアノだったら左手で駆け出される音が、ケイのベースから形は違うがしっかり聴こえた。

「あの、ケイとユウで合わせてもらえませんか」

シイがオレはどうしたと睨んできたので、とりあえず苦笑いを向けた。

とりあえず耳慣れたメロディをやるであろうケイとユウの音を先に聴きたいのだ。

聡いシイはやれやれという風に頷いてケイとユウを見る。

「良いですよ」
「りょかーい」

二人は返事をすると、視線を合わせた。

無言の合図。そして綺麗に重なる二人の音。

大砲が落ちる音がして──英雄が走り出した。

英雄ポロネーズはショパンがナポレオンに捧げるために作った曲だ。

後ろで銃が飛び交う。ケイのベース。
そこを軽やかに馬と駆けるユウのギター。

すごい。ロックなクラシック。

そこに自然と、シイのドラムが入ってきた。違和感なく。
良いアクセントを付けて。


楽譜もらっていきなりこんだけ弾けるのか、とか。
なんでちゃんとクラシックな雰囲気があるの、とか。

疑問は音に沈んでしまった。



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