エングラム
彼らの演奏を聞き終えた私は、しばらく固まったままだった。
耳から離れない熱。
「戦場にいた英雄に向けた歌かぁー良いねー」
ケイがぐぐっと伸びをしながら言った言葉で、はっと意識を取り戻す。
「呑まれましたか」
ユウが笑い声を漏らしながら私に言った。改めて思うがよく笑う人。
「中間部が特に難しいですね…この曲難易度高いですし」
私が頷いて、ユウが尋ねる。
「シランさんはピアノでこれを弾けるんですか?」
「あぁ、はいなんとか」
ユウの言っていた通りに、ホ長調でかかれた中間部は特に難しい。
「なかなかピアノが上手なようですね」
いえそんな、と私は謙遜する。
そもそもオウ兄が亡くなって以来か否か、弾いていなかったのだ。
──オウ兄にも聴かせたかったな。
離れない音の中でオウ兄を呼んだ。
「シラン」
何故か少しむっつりとした表情でシイが私の名前を呼んだ。
別にもう、ちゃんとオウ兄は“思い出”だ。
そう思いながらシイを見たら──今度は優しげな表情だった。