エングラム



多分、思い出と今がごっちゃにならないように呼んでくれた。

そう思えるって、人の優しさに気づけるってことだ。

「さぁじゃあ次はシランちゃんもやろっかぁ」

ケイが私に声を向けた。

「はいっ」

ケイはにこっと笑うと、ビートルズが良いなと口にする。

「She Said She Saidにしよう」

どんな曲だったっけ、とケイが曲について教えてくれたことを思い出す。

1965年に作られた死を歌う曲だ。
これを作った時のジョン・レノンはLSD──麻薬──をガバガバと飲んでいたらしい。

曲に出てくるSheというのはアメリカの女優を指しているらしい。

その麻薬を飲んでいる時に“She”の弟の俳優との会話が曲の元だとかケイが言っていた。

「……選曲がアレだな…」

思い出した私の変わりに、頭を抱えてシイが呟いた。

「軽快でどことなくダランとしたあの感じ良ーじゃん」

「サイケだな」

シイが頭を抱えたまま呟くと、ユウが小刻みに肩を揺らし声に出さず笑い出した。

そこで笑うツボが分からない。



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