エングラム
いつも切り上げる時間になり、楽器を片付ける。
「んーどの曲にしようかねー?」
「バラード系のものとかも出して良いんじゃないですか」
「新曲作るのも良いかもな」
彼らクラスペディアはバンドコンテストの話をあーだこーだと話している。
私はその輪に入れず、黙々とベースをケースに閉まった。
少し、寂しい。
──…オウ兄。
学校とかでも寂しくなったり孤独感に襲われると、心の中でオウ兄を呼ぶ。
だってオウ兄は私を一人にしないから。
思い出の中にしかいない彼は私を嫌わないから。
オウ兄、ともう一度呼ぶ。
「──シラン」
「え、あ……はいっ」
突然に掛けられた声は、シイのもの。
あぁやっと呼んでくれたという隠れた安堵と、なんだろうという疑問。
「お前はオレらの曲で好きなもんあるか?」
シイは私の隣にくると、そう尋ねながら私の頬をまるで猫にするように撫でた。
「え…っと、」
何かこういう時、良いこと言わなきゃと考えてしまいなかなか声が出ない。