エングラム
歌詞を訳すのを一段落終えると、私は楽譜を出した。
いつかに約束した、シイに弾こう思っているショパンの曲だ。
学校がないとピアノを弾く機会がない。
だから鈍らないようにと
「エアギターならぬエアピアノ」
私はそう独り言を落として指を動かす。
ちゃららん、と指を動かす。
空気の中に探し出す音。
それを止めベースを練習。気が付いたら夜中になっていた。
一日が24日じゃ足りないな。
一年が365日じゃ多過ぎるくせして。
机の上に広がった数枚の楽譜。
その中にはケイがくれたクラスペディアオリジナルのものもある。
「弾けるようになるかな…」
ケイはどうしてこれをくれたんだろう、と考えたがそれは直ぐに沈んだ。
きっと私を認めてくれたんじゃないかと一人にやける。
まぁもちろん、未来が見える少年が楽譜をくれた理由を後から知ることになる。
机の上に散らかった楽譜の下で、オウ兄の手紙が埋もれていた。
それに気付かず私は楽譜をまとめてしまった。