エングラム
駅から出たら、まず目についたのは人だかりだった。
その人だかりの割れ目から零れる音が、耳に解けた。
足を止めて、私はその音をなぞる。
どっかのバンド。
アップテンポの曲。
ギターっぽい音。
今は伴奏なのか、声はない。
ありふれたものだと、思った、直後。
──…痛くて優しい声が鳴った。
耳に馴染みやすい低音ボイス。
大人のオトコ、とも想像できるが、どことなく幼い感じ。
少年が大人になろうとする時期独特の声だと思った。
興味を引かれて、人だかりの方へ向かう。
隙間をうまくすり抜け、その音の発信源を、瞳に写した。