エングラム



即刻でシイが断った。

私の頭に置いていた手を、自分の顔の前で左右に振って断固拒否。

「痛くしませんから。…初めてなんですか?」

「なんかイロイロと妖しいから止めろ!」

ふはっ、とつい笑ってしまった。

シイがそんな私を見て少し口の端を上げたのに気付いた。
心なしか細められた、眼鏡の奥の目。

おやおや、とユウが言うとシイはハッと気付いたように目つきを変えた。

「ケイはまだか?」

長めの黒い前髪をかき上げ、ふー、とそこで息を吐く。

「しばらくしたら来るでしょう」

ユウが答えて、

「早く来ると良いですね」

私も答える。

あのキラキラの笑顔で。
亜麻色の髪を陽に透かせて。
待ったー?と言ってくるのだろう。

あぁ目に浮かぶ。

「ふふっ」

「シラン変態。──あ、救急車」

シイはさりげなく私を言葉で刺すと何気なく言う。

「変態って。しかもサラッと言わないでください読まないでください。──本当ですね」

姿は確認出来ないが、救急車のサイレンの音が耳に届く。

さして珍しいことではない。
近くにあった音が、ドップラー効果で遠ざかっていったのが分かった。



< 201 / 363 >

この作品をシェア

pagetop