エングラム
即刻でシイが断った。
私の頭に置いていた手を、自分の顔の前で左右に振って断固拒否。
「痛くしませんから。…初めてなんですか?」
「なんかイロイロと妖しいから止めろ!」
ふはっ、とつい笑ってしまった。
シイがそんな私を見て少し口の端を上げたのに気付いた。
心なしか細められた、眼鏡の奥の目。
おやおや、とユウが言うとシイはハッと気付いたように目つきを変えた。
「ケイはまだか?」
長めの黒い前髪をかき上げ、ふー、とそこで息を吐く。
「しばらくしたら来るでしょう」
ユウが答えて、
「早く来ると良いですね」
私も答える。
あのキラキラの笑顔で。
亜麻色の髪を陽に透かせて。
待ったー?と言ってくるのだろう。
あぁ目に浮かぶ。
「ふふっ」
「シラン変態。──あ、救急車」
シイはさりげなく私を言葉で刺すと何気なく言う。
「変態って。しかもサラッと言わないでください読まないでください。──本当ですね」
姿は確認出来ないが、救急車のサイレンの音が耳に届く。
さして珍しいことではない。
近くにあった音が、ドップラー効果で遠ざかっていったのが分かった。