エングラム
私の首ねっこを掴み物陰に連れ込もうとするシイ。
私はユウの片腕にしがみつき足掻く。
ていうか変態でしょこれ。この図危ないパターンだって。
「あ、キス以上のこと考えたお前が変態」
「おやおや。まぁ発情期…じゃなくて思春期ですからね」
「やめて黙ってえぇ!」
ツッコミたかったが、もう恥ずかしくて一々言えなかった。
ユウに至っては絶対にわざと言い間違えた。確信犯だ絶対。
──そんなコントをしているうちに、また半時間経ってしまっていた。
集合時間は、もう一時間前に置かれた。
「さすがに、時間がな」
駅前を歩く人も増えてきた。
シイは顎に手をあてて、下を向いていた顔を上げる。
「行こう」
そう言ったシイに、ユウが直ぐに同意した。
「ま、待たないんですか…?」
思わず聞いてしまった。
だってケイが、メンバーが一人欠けてる。
「向こうで…本番までに来るだろ、行くぞ」
歩きだそうとしない私の手をシイが引っ張った。
ユウが持っている黒いジャケットの持ち主を、置いて。
「来る!だから置いてった言うな!」