エングラム
──あぁ、シイは困っているんですね。
そう気付いて、私の頬にある手に触れた。
──ごめんなさい。ごめんなさい。
「…っ、ごめんなさい、ごめんなさいシイ…!」
「もう黙れ。お前は善人でもなければ謝る必要もないんだ」
こつん、額に当たる額。
くっつけ合う、頭。
あぁ、思考がある頭をくっつけたって思いが伝わるわけじゃないんだよなぁ。
心臓がある左胸を重ね合わせたって、二人で一人の生き物になれるわけでもないし。
「ごめんなさいシイ」
何を言えば良いんだろう。
「オフにした。もう心は聞かないから、口で言え」
「ごめんなさい」
私がもう一度言った時、ぺりっとくっついていた額が離れた。
「分かった受け取る。オレもごめん」
シイはそう言うと、私の頭を撫でた。
「ユウごめん、行こう」
シイがユウに声を向けた。
はいはい、キツネ目は笑う。
「全く、二人とも。さぁ行きましょう。ケイは向こうかもしれませんよ」
──クラスペディアの大事な花びらが欠けたまま、会場の方へ向かった。