エングラム
もう体に馴染んだ、低音。
聴けば音に沈む耳。
この日も夜遅くまで、夢中になった。
受験という現実があるからかもしれない。指が弦から離れない。
逃げだと分かってるけど、逃げることだって大変なんだ。
誰にも言わない言い訳。
私が頑張りたいことは勉強じゃない、手に入れた音楽。
一つでもレベルが高い高校にってみんなが言うけど、そこが肌に合わなきゃ意味がない。
今は、好きなことをする。
今まで中学生になって──こんな好きなもの見つけたことない。
大した青春もない。割合的には嫌なことばっかり。
我慢なんて出来ないと指を動かした。
これを失ったケイの気持ちなど、想像がつかなかった。