エングラム



次の日、私は午前中に身支度を終えて出る支度をした。

病院への往復に困らない程度のお金が入ったお財布。
適当な荷物もバックに入れて、家を出る。

両親への言い訳になるように、宿題である問題集と教科書も入れた。

「行ってきまーす」

いってらっしゃいと返事をもらうと、玄関の扉を閉めた。


近くの駅からいつも乗る路線。すっかり慣れた。

          、、
──オウ兄のところに行くつもりで乗った電車だった。

それが、今では。と口元が笑いそうになる。

景色を見ながらまだ振り返るには早いこの夏の思い出に浸る。

受験生のいわゆる“勝負の夏”は“最高の夏”になった。

過ごし方次第でどうにもなる。

宿題も危ないけれど、後悔なんか絶対しないだろうなと思った。


電車がいつもの駅についた。ホームを出て、近くのバス停に向かう。

ケイのいる病院に行く路線だと確認すると、直ぐに来たバスに乗った。

──ケイになんて言おう。

よく考えれば言葉を用意していない。
…フルーツが入った篭も持ってきてない…!

バスが病院に到着するまでの数十分、それに頭を悩ませた。



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