エングラム



とりあえず病院の売店で何か買おうと決め、私はケイの元へ向かう前に売店に立ち寄った。

「…何が良いんだろ…」

花はシイが持ってきていた。
フルーツが入った篭も…間に合っているだろう。

そういえば花瓶がなかったな、と思い比較的安い花瓶を買った。

あとは少しつまめるようなお菓子を買い、ケイの病室へ向かった。



鈴木惠太、と彼の名前を見てノックをした。

はーい、と濁らない声が反ってきた。

「ケイ!」

扉を開けて、挨拶を交わした。

今はケイだけのようで、ベッドから上半身を起こし本を読んでいた様子だった。

「あ、はいここどーぞっ」

ベッドの脇の椅子に、言われた通り座る。

「あ、今日は私だけ…ですか?」

「うん、シランちゃん一番乗りだねっ」

嘘だと直ぐにわかった。
椅子が、少し温かい。前に座っていた者がいる証拠だ。

「そうですか」

その嘘に騙される。
ケイはにこっと笑うと、変わらぬボーイソプラノで言う。

「花瓶持ってきてくれたのー?」

「あ、はい」

さっき買ったそれを、包装紙から出し見せた。



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