エングラム
棚の上に置かれたシイの花束を手に取り、生けますよ、と席を立った。
「あ、ありがとー」
病室内にある水道を借りて、花を生けた。
花を包んでいた包装紙を近くに置いた。
それが風で舞ってしまう。
濡れた手で掴もうとしたが間に合わず、ケイのベッドの直ぐ下にハラリと落ちた。
「すみません後で拾いますね」
花瓶に水を満たしながらそう言った途端に───ベチンッ、と床に当たる音が響いた。
バッと振り返ったそこには、上半身を落とし無事な左手をつくケイの姿。
「大丈夫ですかっ」
蛇口を捻り水を止めて、すぐにケイに寄り体制を戻すのに手を貸した。
「包装紙拾おうとしたら、ねー…バランス崩しちゃって」
「………痛みませんか?」
ケイをベッドに寝かし、笑うことも出来ず尋ねた。
「うん」
ケイの返事を聞いてから、包装紙を拾った。
たまらなく、切ない気持ちになった。
「綺麗な花ですよね」
花を花瓶に入れ、ケイに見せた。
「うん、そうだよね」
棚の上に飾ったそれに、ケイが目を細めた。