エングラム
眠った私の頭を、ケイが優しく撫でた。
私の寝息がする中にノックの音が転がった。
「シランさん、眠ったようですね」
扉を開いて現れたのは、ユウ。
「…うん」
静かにケイが答えた。
ユウはその返事を聞いてから、病室の窓から外を見た。
金髪が、日差しで輝く。
「私の能力は“記憶を消すこと”──シランさんに使っても良いんですか?」
キツネ目が、目を伏せて微笑むケイを捕える。
「うん、お願いユウ」
ケイの左手が、もう一度眠る私の頭を撫でた。
「僕の音を、声を。忘れて欲しいんだ。あんなこと言われて──…逃げたい、苦しい」
ケイが呟いて、ユウが少し意外そうな声を出した。
「本音を吐くのは、随分珍しいですね」
「うん、クラスペディアとして話すのは最後だからね」
寂しいことを、とユウが言った。
「──クラスペディアと出会った事実を、シランちゃんの記憶から消して」
ユウが少し黙ってから、口を開いた。
「彼女の恋も消えてしまいますよ?」
「うん、分かってる」
だから、とケイは続けた。
「出会う前からずっとシランちゃんには謝ってたよ」