エングラム
──合唱コンクールでやるなんて。
すごいというか、型破りというか。
面白いなぁと耳を傾けた。
近くのクラスメイトは、何これアメリカのかな、と呟いたりしている。
隣の女子につつかれて、stand by meを聴きながら私は小声で解説する。
「アメリカのゴスペルだよ。ベン・E・キングの歌」
同じタイトルをもつ映画の主題歌で話題をよんだ。
少しゆったりとした曲だ。
「へぇ、有名な曲?」
彼女はセーラー服のリボンを触りながら、小声で尋ねる。
「うん」
私は頷いて、ステージの上に視線を戻す。
指揮者はタクトを奮わず、頭上で手拍子を始めた。
聴衆もそれにのり、手拍子をする。
次のクラスはプレッシャーが大きかったのだろう。
三年生最後のクラスが歌ったのは、ひめゆりの塔。
舞台に立った時点で指揮者が泣いていた。腕の振りが甘い。
そのクラスは歌い終えた瞬間、全員が大声で泣き出した。
前がかなり盛り上がったstand by me。プレッシャーが大きかったのだろう。