エングラム
──…第一志望、かぁ。
自室で溜め息を吐きながら進路希望調査のプリントを見つめる。
合唱コンクールという学校行事も終わり、それぞれが勉強に力を注ぐようになっていた。
……多分、私以外は。
「やりたいことかぁ」
そんなものないし、と一人答える。
「うわぁ、もう」
指で摘んだプリントをひらひらさせ、机の上に叩きつける。
ほんとに目を背けたい。
前に進む道など考えられない。
私にとってピアノは趣味の範囲で、それを義務や勉強にはしたくない。
目を背けたら、部屋の端っこに置いてあるベースに視線が合った。
「………楽譜の整理でもしようかな」
ざわざ声に出して机の引き出しに手をかけた。
今までしまいっぱなしだったし、うん。
引き出しから、紙の束を出す。
一番上にあったのは、ショパンの乙女の願い。
音が進むべき道を示す音符が踊っている。
──…誰に、だったんだろう。
誰かに贈りたかった曲。
オウ兄?まさかの委員長?
この楽譜を見ると、もやもやと胸の内が煙る。