エングラム








──…第一志望、かぁ。

自室で溜め息を吐きながら進路希望調査のプリントを見つめる。

合唱コンクールという学校行事も終わり、それぞれが勉強に力を注ぐようになっていた。
……多分、私以外は。

「やりたいことかぁ」

そんなものないし、と一人答える。

「うわぁ、もう」

指で摘んだプリントをひらひらさせ、机の上に叩きつける。

ほんとに目を背けたい。
前に進む道など考えられない。

私にとってピアノは趣味の範囲で、それを義務や勉強にはしたくない。

目を背けたら、部屋の端っこに置いてあるベースに視線が合った。

「………楽譜の整理でもしようかな」

ざわざ声に出して机の引き出しに手をかけた。

今までしまいっぱなしだったし、うん。

引き出しから、紙の束を出す。

一番上にあったのは、ショパンの乙女の願い。
音が進むべき道を示す音符が踊っている。

──…誰に、だったんだろう。

誰かに贈りたかった曲。
オウ兄?まさかの委員長?

この楽譜を見ると、もやもやと胸の内が煙る。



< 343 / 363 >

この作品をシェア

pagetop