エングラム



思い出せそうで分かりそうで。
だが掴めなくて、もどかしくなってその楽譜から視線を外した。

楽譜を整理していくと、何故かピアノ以外のものがあった。


これ明らかにバンド用のだ、と思える総譜。
ビートルズの曲、パートはベース。


「知らないよ、こんなの…」

一緒においで
Come Togethrの楽譜を見ながら呟きを落とす。

更にめくったところで、紙の束の間からカシャンと何かが落ちた。

CDだ。

レーベル面に何もかかれていないCD。
拾い上げて、少しの間それを見つめる。

迷った末に、聴くことにした。

CDをセットして、ボタンを押す。

──…ピアノの、しっとり濡れたような伴奏。

それを聴きながら、再び楽譜の束をめくった。


「……?」

出てきたのは、私の筆跡の、英語と──訳だろう、が書かれた紙。

その紙の上部には、DESPERADO、と書かれている。

変だな、英語なんて苦手なのに。やった覚えもないのに。

睨みつけるように見ていたら、流れた歌声に後頭部を叩かれた。

優しい、歌声に、ハッとした。



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