エングラム



「ううん、いつでも」

曖昧だなぁと思いつつ頷いた私に、そういえば、と言葉が続けられる。

「お花がないの。行く途中にお花屋さんってあった気がしないし」

「うわぁー…」

近くのスーパーはどう、と聞くとあそこ花はないのよ、と返された。

「あ、じゃあ明日学校で誰かに聞いてみるよ」

そう答えると、母親は驚いたような顔を浮かべる。

「え、何かしたっけ?」

「ううん。──学校で聞いてくるよ、なんてフレーズ初めて聞いたから」

親って言うのは、面倒らしい。
子どもの小さな一言に気付いて、表情を変えて、と。
優しいからこそ面倒だねなんて思った。

「うん、まぁ、聞くから」

聞けるようになったから。

「明日お店教えてもらって、買ってくるね」

そう私が言うと母親は、頷いて部屋を出た。

「………花屋、かぁ」


少し、オウ兄のことを思い出した。


ヘッドフォンから流れる音楽が変わる。
Boyz II MenのYour Home Is In My Heartだ。



< 350 / 363 >

この作品をシェア

pagetop