エングラム
「ううん、いつでも」
曖昧だなぁと思いつつ頷いた私に、そういえば、と言葉が続けられる。
「お花がないの。行く途中にお花屋さんってあった気がしないし」
「うわぁー…」
近くのスーパーはどう、と聞くとあそこ花はないのよ、と返された。
「あ、じゃあ明日学校で誰かに聞いてみるよ」
そう答えると、母親は驚いたような顔を浮かべる。
「え、何かしたっけ?」
「ううん。──学校で聞いてくるよ、なんてフレーズ初めて聞いたから」
親って言うのは、面倒らしい。
子どもの小さな一言に気付いて、表情を変えて、と。
優しいからこそ面倒だねなんて思った。
「うん、まぁ、聞くから」
聞けるようになったから。
「明日お店教えてもらって、買ってくるね」
そう私が言うと母親は、頷いて部屋を出た。
「………花屋、かぁ」
少し、オウ兄のことを思い出した。
ヘッドフォンから流れる音楽が変わる。
Boyz II MenのYour Home Is In My Heartだ。